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相続放棄をする場合に、被相続人が残した不用品を廃棄してよいか

カテゴリー:ブログ 更新日時:2022年1月20日 

 

相続放棄に関するご相談を伺っていると、

 

「相続放棄をしたいが、被相続人(亡くなられた方)が残した不用品を廃棄してよいか」

 

というご質問を受けることがあります。

 

このご質問に対するお答えの結論だけ申し上げるとすれば、その不用品が「一般的経済価格あるもの」に該当しなければ廃棄してもよい、ということになると考えられます。

ただ、これだけでは説明になっておりませんので、もう少し詳しくご説明します。

 

〇相続放棄の概要

相続をする場合、借金などの債務も承継することとなります。

そこで、亡くなられた方が多額の借金を負担していたなどの理由により、プラスの遺産(預貯金、有価証券等)よりもマイナスの遺産(借金、保証債務等)が大きい場合には、相続放棄を行うことをお勧めしています。

相続放棄をした方は、そもそも相続人とならなかったものとみなされますので(民法939条)、プラスの遺産もマイナスの遺産も相続しないこととなります。

相続放棄をするには、自己のために相続の開始があったことを知った時(通常は被相続人が亡くなったことを知った時)から3か月以内に、家庭裁判所において相続放棄の申述を行う必要があります(民法915条1項、938条)

 

〇相続放棄をする場合には遺産を処分できないこと

ここで注意すべき点は、「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」(民法921条1号)には、その相続人は単純承認をしたものとみなされ、相続放棄ができないということです。

冒頭に挙げたご質問は、被相続人が残した不用品を廃棄することが、この「相続財産の全部又は一部を処分した」ことに該当し、相続放棄ができなくなってしまうのではないか、というご趣旨であろうと思われます。

 

〇不用品の廃棄が「相続財産の処分」にあたるかどうか

この点に関し、ある裁判例は、相続放棄をした方が、被相続人の遺産に含まれる「着古したボロの上着とズボン各一着」を、その方の元従業員に与えたという事案について、次のように述べています。

 

「右古着(注:上記の上着とズボン)は使用に堪えないものではないにしても、もはや交換価値はないものというべきであり、その経済的価値は皆無といえないにしても、いわゆる一般的経済価格あるものの処分とはいえないから、前記規定の趣旨に照らせばかようなものの処分をもつてはいまだ単純承認とみなされるという効果を与えるに足りないと解するのが相当である。」(東京高等裁判所昭和37年7月19日決定・東京高等裁判所(民事)判決時報13巻7号117頁)

 

要するに、「一般的経済価格あるもの」でなければ、それを処分しても相続放棄は可能である、というのです。

 

では、「一般的経済価格」とはなんでしょうか。先の裁判例は「もはや交換価値はないものというべきであり」とも述べていますから、その物に「交換価値」があるかどうかが判断基準となりそうです。

しかしながら、「一般的経済価格」といっても、「交換価値」といっても、結局のところ曖昧であり、明確な線引きは困難であると言わざるを得ません。

ごく一般論として言えば、全く価値がないようなごみを廃棄することは相続放棄の妨げにはならないと考えられます。しかしながら最終的には、具体的な事案ごとに検討していくしかありません。

 

以上のとおり、相続放棄の手続きを行うに際しては注意すべき点があります。また、相続放棄の手続きには期限があります。

相続放棄をすべきかどうか、相続放棄をする場合にどのように手続きを進めればよいか、ということでお悩みの方は、お早めに弁護士にご相談いただくことをお勧めします。

(弁護士 大寺健太)